館長ごあいさつ

新年に際し〜ご報告とご挨拶〜

新渡戸記念館館長 新渡戸常憲
(音楽学博士 音楽評論家)

新年明けましておめでとうございます。当館の廃館取り壊し問題につきましては、令和5年12月28日、裁判所の和解調停により十和田市とのおよそ9年にもおよぶ裁判が終結しましたことを、ここにご報告申し上げます。今に至るまで、全国の沢山の皆さまに関心を持っていただき、変わらず記念館の存続のためにご寄付をお送りいただくなど、さまざまな形で当館にご支援、ご協力の暖かい手を差し伸べて下さっていることに、衷心よりお礼申し上げます。今後は更に、独自運営による通常開館を目指し、志を共にしてくださる方々と地域、国を超えて手をつなぎ、日本の心、精神、文化を次世代につないでいくために邁進して参りたいと存じますので、益々のご支援ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

さて、新渡戸記念館の歴史を紐解きますと、大正14年(1925年)に新渡戸稲造の意志により、その前身となる「私設新渡戸文庫」として稲造の祖父・新渡戸傳の眠る太素塚の敷地内に設置されたのがはじまりです。江戸時代末期、「不毛の地」とされた三本木原(十和田市周辺地域)を米どころへ変えようと、新渡戸傳(稲造の祖父)、十次郎(稲造の父)、七郎(稲造の兄)三代を中心とする地域の先人たちが人生をかけて行った開拓の苦難の歴史は、後に世界でも名高い国際人に成長した新渡戸稲造少年にも大きな影響を与えました。三本木原開拓は、水を引き、まちをつくり、京に学び文化や産業を興し、神社仏閣を設置する、という総合開拓でしたが、新渡戸十次郎が急逝すると、文化や教育面の育成は滞ってしまいました。そこで、江戸から明治への時代の転換期に東洋、西洋の文化に触れ、国内外で教育や外交にも尽力した新渡戸稲造は、三本木地域の住民の文化や教養を高めて欲しいと、自らの蔵書7000冊を贈ってここに新渡戸文庫を開き、設立理念として「博覧啓蒙」の書を揮毫しました。こうして三本木原開拓の資料と新渡戸家伝来の武具甲冑、新渡戸稲造の蔵書などおよそ8000点の資料を保存、展示し地域に親しまれ歩んできた私設新渡戸文庫は、昭和40年(1965年)に、十和田市と共に、収蔵する貴重な文化財を永久に保存していくことを申し合わせ、「十和田市立新渡戸記念館」となりました。奇しくも廃館取り壊し問題が発生した平成27年(2015年)には、私設として40年、市立として50年、合わせて90周年を迎えておりました。さらにそこから、新渡戸家と市内外有志によるボランティア運営となり、苦難の9年を乗り越え、来年2025年に創立100周年を迎えます。

この館を大切にしてくださった皆さまのお心を繋いで今まさに迎えようとする一世紀の大きな節目に思いを致し、改めて深く感謝申し上げる次第です。これまで地域に愛され親しまれ、ふるさとに根差しつつ世界に開かれた窓となってきた新渡戸記念館は、世界に向け、未来に向けメッセージを発信するという使命を以て存在しています。その使命を変わらず果たすために、記念館の活動を絶やすことの無いよう努力を続けていきたいと、思いを新たにしております。新渡戸家に伝わる「温故知新」の精神で、伝統を大切にする一方、私なりのさまざまな創造も館の運営に反映し、問題を打開できればと思い活動を続けて参りました。当館の歴史や収蔵資料は、地域にとっても日本にとっても貴重なものであることは多くの方がご存じの通りです。十和田市三本木原開拓の歴史と幾多の困難に立ち向かい、郷土の発展に尽くした先人の開拓精神、そしてその精神を受け継ぎ世界平和の地平を目指した新渡戸稲造博士の崇高な魂を、皆様にも感じていただきたいと思います。

新渡戸記念館の建物は、生田勉東京大学名誉教授による意匠設計と、日本建築学会元会長でもあられた佐藤武夫早稲田大学教授の構造設計による日本に現存する唯一のコラボレーションであり、記念館史料同様に価値あるものです。先の訴訟により存続が危ぶまれたこの建築物も、地域の大きな財産として、太素塚に遺すことができました。太素の杜に、小さいながらも風格をもって建つ新渡戸記念館の生田建築は、風土と歴史の土台にしっかりと根をはり、今を生きる自らを大切に、より良い未来を切り拓こうとする精神の象徴として、地域を照らす灯火となったことは間違いありません。そうした記念館が伝える歴史文化を育んだ国立公園十和田湖から奥入瀬渓流、秀美な八甲田の山容、その見事な景観の四季折々の佇まいも、見事な美しさです。ぜひ一度お立ち寄りいただければなによりです。

振り返れば、先の見えない真っ暗なトンネルを歩む様な9年でした。その様な状況の中でも、既存の友人たちや記念館ファン、『武士道』ファンも含め新たな友人たちが、市内はもとより全国から我々を支持してくださり、導いて下さったことは、記念館や、当館を護るために活動する市民有志一人一人にとって、何にも代えがたい財産となっております。そのことが私にはとても嬉しく、私自身の財産となりました。これがまさに開拓の実践であり、ご先祖たちの望むことであったと、今、確信しております。皆さまにおかれましては、2024年が素晴らしい年になりますよう心より祈念申し上げ私のあいさつとさせていただきます。

令和6年(2024年)1月1日
新渡戸記念館 館長 新渡戸常憲

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